“地震”、“火災”とともに、“風水害”は城の大敵の一つに挙げられます。このコラムでは、2018年~2019年にかけて発生した集中豪雨や台風を振り返りながら、「平成30年7月豪雨」と「平成30年台風21号」によって石垣が崩落した、「石垣が天守を大きく見せる」丸亀城を紹介します。
1. 「風水害」も城の大敵
これまで城の大敵として“地震”(Vol.7、Vol.11)と“火災”(Vol.10)を紹介してきたが、もう一つ忘れてはならないのは「風水害」であろう。「地球温暖化」による様々な影響が取りざたされているが、最近では「地球温暖化」によって“集中豪雨”が頻発し、“台風”の巨大化ないし激甚化が進んでいるとよく言われている。後述するとおり、そのエビデンスについてはなお十分に検証する必要があるものの、雨風が激しくなれば、当然ことながら建造物である「城」は大きなダメージを受けることになる。自然が相手となるだけに、実に厄介な敵である。
2.「地球温暖化」が与える影響
熱帯などの海域では、太陽の強い日射によって海水温が高くなるため、海上で上昇気流が発生しやすく、大量の水蒸気が反時計回りに渦を巻きながら上空に昇っていく。大量の水蒸気を含んだ下層の空気が上空で集まると、多数の積乱雲が発生。積乱雲が集まって渦が大きくなると熱帯低気圧となり、それがさらに発達すると台風になる。
「地球温暖化」は、近年の台風にどのような影響を与えているのであろうか。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告によれば、「地球温暖化」が進んだ世界では、強い熱帯低気圧が増加する可能性が高いと言われている。その一方で、気象庁ホームページによれば、「台風(最大風速が秒速17.2メートル以上の北西太平洋の熱帯低気圧を台風と呼びます)の発生個数、日本への接近数、上陸数には、長期的な増加や減少の傾向は見られ(ない)」とのこと。台風の大型化や激甚化が進んでいると言うためには、もう少し時間をかけてデータ集積と検証を行う必要があると考える。
2021年までの台風の発生数[協定世界時基準] | |||||||||||||
年 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 年間 |
2021 | 1 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 4 | 4 | 1 | 1 | 22 | ||
2020 | 1 | 1 | 8 | 3 | 6 | 3 | 1 | 23 | |||||
2019 | 1 | 1 | 1 | 4 | 5 | 6 | 4 | 6 | 1 | 29 | |||
2018 | 1 | 1 | 1 | 4 | 5 | 9 | 4 | 1 | 3 | 29 | |||
2017 | 1 | 1 | 8 | 6 | 3 | 3 | 3 | 2 | 27 | ||||
2016 | 4 | 7 | 7 | 4 | 3 | 1 | 26 | ||||||
2015 | 1 | 1 | 2 | 1 | 2 | 2 | 3 | 4 | 5 | 4 | 1 | 1 | 27 |
2014 | 2 | 1 | 2 | 2 | 5 | 1 | 5 | 2 | 1 | 2 | 23 | ||
2013 | 1 | 1 | 4 | 3 | 6 | 8 | 6 | 2 | 31 | ||||
2012 | 1 | 1 | 4 | 4 | 5 | 3 | 5 | 1 | 1 | 25 | |||
2011 | 2 | 3 | 4 | 3 | 7 | 1 | 1 | 21 |
*気象庁ホームページ>各種データ・資料>過去の台風資料>台風の統計資料>台風の発生数から引用
ちなみに気象庁は、温室効果ガスの排出が高いレベルで続くと想定した場合の21世紀末の日本の気候予測について、「地球温暖化予測情報第9巻」に以下のような予測結果を取りまとめている(20世紀末との比較)。事態は決して楽観的なものではない。
・年平均気温は全国平均で4.5℃、地域によって3.3~4.9℃上昇する。猛暑日(最高気温が35℃以上の日)など極端に暑い日数は増加する。
・滝のように降る雨(1時間降水量50mm以上の短時間強雨)の発生回数は全国平均で2倍以上となる。雨の降らない日数は全国的に増加する。
・年降雪量は本州日本海側で大きく減少し、降雪期間及び積雪期間は短くなる一方、20世紀末と同程度の降雪量となる年もある。
3.2018年~2019年を振り返ってみると…
2018年から2019年にかけて、集中豪雨と台風が日本各地に大きな傷跡を残したことは、まだ我々の記憶にも新しいところである。概要は以下のとおりである。
年月日 | 災害名 | 地域 | 被害状況 |
2018年7月 | 平成30年7月豪雨(西日本豪雨) | 西日本中心 | 河川の氾濫、浸水害、土砂災害等、死者237名(広島115名、岡山県66名、愛媛県31名等) |
2018 年9月 | 平成30年台風21号 | 大阪・京都・兵庫等 | 土砂災害全国で12件、死者14名(大阪府8名、愛知県2名等)、関西空港一時閉鎖 |
2018 年9月 | 平成30年台風24号 | 東京、神奈川、静岡等 | 八王子市瞬間最大風速45.6m、JR東日本が首都圏全線で計画運休実施 |
2019年9月~10月 | 令和元年房総半島台風(台風15号) | 関東中心 | 千葉市瞬間最大風速57.5m、死者3名、市原市ゴルフ練習場の鉄柱倒壊 |
2019年10月 | 令和元年東日本台風(台風19号) | 東日本中心 | 記録的豪雨、多摩川、千曲川、阿武隈川などの主要河川の堤防決壊、13府県が大雨特別警報の対象 |
2018年の台風上陸数は前記2のとおり29。河川の氾濫、浸水害、土砂災害等、西日本を中心に甚大な被害をもたらした「平成30年7月豪雨」の発生要因となった台風7号、「逆走台風」などと呼ばれて話題となった台風12号、25年ぶりに強い勢力のままで日本に上陸、各地に記録的な暴風雨をもたらし、台風による高潮のなどの影響で関西空港の滑走路の浸水、本土と空港を結ぶ連絡橋にタンカーが衝突、空港利用客にも大きな影響を与えた台風21号、台風通過後に農作物に塩害の被害を与えた台風24号など、まさに“台風ラッシュ”となった一年であった。
2019年の台風上陸数は2018年と同じく29。“台風ラッシュ”がなおも続いた一年であったが、千葉県を中心に暴風の被害を与え、関東史上最強の台風と呼ばれた「令和元年房総半島台風」、東日本および東北地方にわたって記録的な豪雨をもたらし、多摩川や千曲川、阿武隈川といった主要河川の氾濫・堤防決壊を引き起こした「令和元年東日本台風」が、特に甚大な被害をもたらした。
4.丸亀城石垣の崩落
「丸亀城」。現存天守12城の一つであり、「石垣の名城」として知られる。その壮大な石垣は見る者を圧倒する。本丸まで四段に重なる石垣は、累計で高さ日本一を誇ると言われており、大手門から見上げる三重三階の天守は実に荘厳であり、立派なものである。しかしながら、実際に本丸に着いてみると、あまりの小ぶりな天守に驚かされ、ギャップを感じる。「石垣が天守を大きく見せる城」。筆者が考える丸亀城のキャッチフレーズである。
*大手門から眺める丸亀城天守。実に立派なものに見える。
*丸亀城天守は、現存天守12城で一番小ぶりなものである。
2018年7月の「西日本豪雨」によって、「丸亀城」を取り囲むようにして築かれた「帯曲輪」と呼ばれる部分の石垣の一部が崩落、崩れた石垣は高さ約7メートル、長さ約30メートルと広範囲にわたった。そこに追い打ちをかけたのが「平成30年台風21号」である。2018年10月8日には帯曲輪西面の石垣が高さ約16メートル、幅約18メートルにわたって新たに崩落。10月9日には三の丸坤櫓跡石垣が高さ約17メートル、東西約25メートル、南北約30メートルの広範囲にわたって崩れ落ちた。
*丸亀市ホームページ>トップ>くらしの情報・教育・文化・スポーツ>文化・芸術・丸亀城石垣復旧事業>史跡丸亀城石垣崩落についてから引用
*三の丸坤櫓跡エリアの石垣崩落の様子(2018年12月4日撮影)
これに対する丸亀市の対応は素早かったと言える。2018年11から崩れた石の撤去や排水処理などの応急対策工事を進め、翌年1月31日に石垣を一度解体して積み直す本格的な復旧工事に着手した。三の丸石垣・坤櫓石垣の解体⇒帯曲輪石垣の解体⇒帯曲輪石垣の復旧⇒三の丸石垣・坤石垣の復旧という順番で作業が進められ、総事業費は31億5,000万円から35億5,000万円の見込み、2024年(令和6年)3月までの完成を目指して工事が進められている。丸亀市には、石垣修復のための募金や寄付金が約4憶4,400万円集まっている(2022年4月22日現在)。
2019年12月12日には、「丸亀城石垣崩落復旧整備事業PR館」が旧城内グランド横にオープンした。石垣に関するパネル展示、応援メッセージの掲示、天守型募金箱の設置、丸亀の文字を組み立てて丸亀城を作るご当地プラモデル「ゴトプラ丸亀城」の展示、屋上展望デッキからの工事現場の見学など、その企画はなかなか趣向に富んだものになっている。“城好き”の端くれとしては、丸亀城の一日も早い復旧を祈るとともに、是非とも現地に直接足を運んで、その復旧状況を自分の目で確かめてみたいと思っている。
👉 Vol.14 「“シン・廃城“を行く ー 大峰城編 ー」
[…] 👉 Vol.13 「風水害との戦い その1」 […]