「日本100名城」(Vol.4)

このコラムでは、城ブームの火付け役となった「日本100名城」のことをまとめてみました。数多くの名城の中からどのようにして「100名城」が選定されたのか、スタンプラリーが始まった時の城好きたちの苦悩、「100名城」制覇までの長~い道のり、制覇の後に待っていたご褒美。「100名城」に興味を持たれた方は是非ご一読ください。

1. 平成18年2月「日本100名城」の発表

今は空前の“城ブーム”であると言われている。その火付け役となったのが「日本100名城」であることは間違いないであろう。日本が世界に誇る文化遺産であり、地域のシンボリックな存在となっている城郭が広く市民から理解され、より充実した見学ができるように、財団法人日本城郭協会が平成19年度に創立40周年を迎えた記念事業として企画されたものである。

「日本100名城」選定にあたっては、優れた文化財・史跡であること、②著名な歴史的な舞台であること時代・地域の代表であることという、3つの選定基準が定められた。各都道府県から1城以上、5城以内とするという地域的な配慮を行ったうえで、この3基準を勘案して全国の城郭ファンから推薦を募り、478城をリストアップ、最終的には城郭に関する各分野6名*1の専門家による選定会議を経て、100城への絞り込みが行われた。平成18年(2006年)2月、「日本100名城」の決定が文部科学省記者クラブで発表されると、新聞やテレビで大きく報道されるようになり、平成19年(2007年)6月からは「日本100名城」にスタンプが設置され、スタンプラリーが開始された。これによって親子で城見学に出かけるといったように、城が我々にとってより身近な存在になるとともに、選定された城郭においても、文化財としての価値を守りつつ、より見学をしやすくするための環境整備が各所で進められるようになった。

*1   選定委員には、歴史学者の小和田哲男先生(静岡大学名誉教授)、城郭考古学者である千田嘉博先生(奈良大学教授)などが名を連ねる。いずれも、城好きの方であれば誰もが知っている著名な御仁である。

 

2.城好きたちの逡巡(しゅんじゅん)

「日本100名城」の存在が世の中に明らかになった時、恐らく全国の城好きの方々は逡巡したに違いない。なぜなら、「日本100名城」に選定された城は、いずれもこれまで名城と言われてきた城ばかり。城好きであれば、過去に一度は訪れたことがある場所が数多く含まれていたからである。「日本100名城」に行った記録を残すためには、スタンプ帳にスタンプを押さなければならない。さてさて、もう一度出かけるべきかどうか。47都道府県には満遍なく「名城」が配置されている。手間暇もコストも随分とかかるしなあ~。よく考えられたこのイベントにゼロベースで参加するべきかどうか…。自分自身もしばらくの間、どうするべきかを悩んでいたことを記憶している(苦笑)。

最終的にイベントへの参加を決めたのは、スタンプを押していくことでその記録が残り、攻略した城の数が次々と増えていくという、何とも言えない高揚感を味わえることが決め手であったように思う。その意味では、日本城郭協会の戦略にまんまとハマったということになるのかもしれない(笑)。北海道のチャシや沖縄のグスク(城)のように、自分が今まで知らなかった城郭文化や、これまで足を踏み入れることがなかった山城の世界をこの目で見てみたいというモチベーションも、チャレンジの大きな後押しとなった。かくして、自分の場合は、平成20年(2008年)秋から「日本100名城」制覇に向けての挑戦を始めた。

 

3.制覇までの道のり

いざスタートをしてみると、なかなかの難事業であることを思い知らされる。会社勤めの身としては、休日を利用して出かけるか、数少ない出張の機会を利用してその前後で行程を組むぐらいしかチャンスがない。いつも出かけていてばかりでは家族の手前もある。攻略は思うように進まない。

結局、足かけ12年を要することになった。1年間に攻略できた城の数は最高で12城。1か月にようやく1城を攻略できるかどうかというペースである。平成の時代が終わるまでには何とかミッションコンプリートしたい。最後は意地だけである。

平成20年 1 松本城(11/23)
平成21年 11 熊本城(1/13)小田原城(2/7)今治城(5/28)宇和島城(5/28)松山城(5/29)湯築城(5/29)大洲城(5/29)山形城(10/9)名古屋城(11/15)会津若松城(11/21)二本松城(11/22)
平生22年 11 新発田城(1/23)多賀城(1/29)仙台城(1/29)二条城(2/19)高知城(5/29)鉢形城(6/15)高遠城(8/22)川越城(10/28)水戸城(11/15)白河小峰城(12/1)金山城(12/11)
平成23年 2 中城城(2/3)佐倉城(5/14)
平成24年 8 萩城(2/11)津和野城(2/12)松代城(4/6)八王子城(8/19)弘前城(8/24)福岡城(10/12)駿府城(10/20)掛川城(10/20)
平成25年 11 広島城(5/6)福山城(5/6)久保田城(6/11)盛岡城(6/12)箕輪城(6/16)和歌山城(7/9)大野城(10/11)岡崎城(11/9)姫路城(12/21)明石城(12/21)赤穂城(12/21)
平成26年 8 山中城(6/8)名護屋城(7/6)佐賀城(7/6)足利氏館(7/19)五稜郭(8/5)松前城(8/6)小諸城(8/23)松江城(11/2)
平成27年 10 徳島城(3/7)大分府内城(3/23)岩村城(8/16)篠山城(11/21)犬山城(11/28)岐阜城(11/28)伊賀上野城(11/29)松坂城(11/29)高松城(12/19)丸亀城(12/19)
平成28年 8 長篠城(7/10)春日山城(8/20)今帰仁城(9/25)七尾城(12/17)金沢城(12/17)高岡城(12/18)丸岡城(12/18)一乗谷城(12/18)
平成29年 12 根城(1/7)武田氏館(2/4)甲府城(2/4)安土城(3/13)観音寺城(3/13)上田城(3/25)高取城(8/5)千早城(8/5)大阪城(8/22)首里城(9/16)彦根城(10/29)小谷城(10/30)
平成30年 12 島原城(3/14)月山富田城(4/15)津山城(4/15)備中松山城(4/16)鬼ノ城(4/16)岡山城(4/16)根室半島チャシ群(7/16)岡城(10/30)人吉城(10/31)飫肥城(10/31)郡山城(11/23)岩国城(11/23)
平成31年 6 平戸城(2/9)吉野ヶ里(2/9)鹿児島城(2/11)竹田城(4/14)鳥取城(4/15)江戸城(4/29)

「日本100名城」を制覇すると、もれなくご褒美が付いてくる。スタンプ帳を日本城郭協会へ送付すると、登城完了印と登城順位が記入される。日本城郭協会のホームページには、登城認定者として名前が掲載される。さらに、寄付行為が別途必要になるが、「日本100名城登城認定証記念楯*2を手にいれることができる。一生モノの記念である。

自分の場合は、登城順位が2800番台になった。私が攻略に苦戦をしている間、実に2800名以上の猛者たちが先陣を切っていたということになる。世の中には“城好き”がいかに多いことか。実感させられる数字である*3

*2  財団法人日本城郭協会は、平成25年(2013年)に内閣府より公益財団法人として移行認定を受け、新たなスタートを切った。協会は創立50周年を経過しているにもかかわらず、財務基盤は脆弱のままであり、「記念盾」はご寄付をいただいた方に贈呈させていただきたい。案内の概要はこのような内容である。ちなみに、寄付金額は一口15,000円である。

*3    ホームページによれば、令和3年(2021年)8月10日時点での「日本100名城」登城認定者は、既に4,000名を超えている。

 

4.「一城、一城と丁寧に向き合う」

「日本100名城」攻略にあたって自分が信条にしていたのは、「一城、一城と丁寧に向き合う」ことである。Vol.1のとおり、城に行けば城主がなぜそこに城を築いたのか、その城は攻めの城であったのか、守りの城であったのか。あたかも城主の人生そのものが見えてくる。一つとして同じ城はないのである。そういうことに対して丁寧に向き合うことが“城巡り”のマナーであり、礼儀のように感じる。単なるスタンプ集めに終わらないよう、五感を研ぎ澄まして、その城の記録と記憶を丁寧に残すようにすること。これからも大事にしていきたいことである。

「日本100名城」スタンプラリーを一つのきっかけにして城ブームが到来、その盛り上がりを受けて、「続日本100名城」が平成29年(2017年)3月31日に選定され、同年4月6日の「城の日」に発表が行われた。「続日本100名城」では、建造物や石垣などがまだない戦国の土造りの山城が数多くリストアップされている。城マニア達の熱い挑戦はこれからも続くのである*4

*4  同じく令和3年(2021年)8月10日時点での協会のホームページによれば、「続日本100名城」登城認定者は既に670名以上に達している。

👉 Vol.5 城に関するTV番組

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