城巡りの魅力(Vol.1)

このコラムでは、人が「城巡り」をする動機を解明しています。旅に出かける前に、是非ご一読いただければ幸いです。

1.「そこに、城があるからだ」

なぜ人は城巡りをするのだろうか。さしずめ、「そこに、城があるからだ」*1ということになるかもしれない。古今東西、城には人を惹きつける魅力がある。第1回目からいきなり難しいテーマを選んでしまったが(苦笑)、城巡りが持つ魅力について改めて考えてみたい。

*1 「なぜ、山に登るのか。そこに、山があるからだ」。イギリスの伝説的登山家ジョージ・マロリーの有名な言葉。山を人生にたとえ哲学的な意味を持たせることが多いようだが、実のところは単にエベレストを指してコメントしただけだとか。

城作りは人生そのもの。城主は自分なりのビジョンを持ち、限られた予算と納期の中で創意工夫をこらしながら城作りをする。守りの城なのか、攻めの城なのか、それとも城に全く違う意味を持たせたのか。城に行けば、城主の人生そのものが見えてくる。もし、先のフレーズに哲学的な意味を持たせるとすれば、こんな感じだろうか。

 

2.「おらが街のシンボル」

城巡りの魅力の第一にこの点を挙げたい。城がある街を訪れてみると、駅からは少し離れた場所に城郭や遺構が残されていることが多い。江戸時代、城を中心にして城下町が形成・整備され、時代が変わって鉄道や駅が街の中心地から少し離れた場所に作られる。時間軸としてはこのように整理されるが、城が今でも街のシンボルになっていることは間違いない。

『NHKスペシャル 熊本城 再建 “サムライの英知”を未来へ』*2というテレビ番組を見た。まだ我々の記憶にも新しい熊本地震*3によって、熊本城は甚大な被害を受けた。自分は熊本城の天守を見て大きくなった、熊本城は自分の人生そのものである、一日も早く元の姿に戻ってほしい等々。熊本地震で傷ついた熊本城のことを語る市民の皆さんの声には胸を打たれる。熊本に限らず、城がある街(城下町)では、シンボリックな存在として城を誇りに思っている方が多いのではないだろうか。

旅先に城があれば、さほど興味を持っていない方でも訪れてみようかなという思いが自然に湧いてくる。天守があれば、たとえ急勾配の階段*4が前方に待ち構えていたとしても、頑張ってそのてっぺんに登って街の景色を眺めてみたいという気持ちになってくる。街のシンボルを自分の目で確かめてみたいと思うこと。人が城巡りをする理由の一つであろう。

*2   2017(平成29)年4月16日21時に放映されたテレビ番組。番組の中では、NHKがドローンで被害状況を確認し、デジタル空間に熊本城を再現したところ、築城当初に造られた石垣の約9割が地震に耐えていたことが判明した、と紹介されている。

*3  熊本地震は、2016(平成28)年4月14日21時26分に発生したマグニチュード6.5・最大震度7の前震、4月16日1時25分に発生したマグニチュード7.3・最大震度7の本震が連続したもの。未明に発生した本震によって、熊本城の屋根に残っていた瓦のほとんどが落ちた。

*4   Vol.2で紹介する「現存天守」の階段は、いずれも非常に急勾配な構造である。彦根城、松本城、丸岡城では、実に60度を超える勾配になっているとか。一般家庭の階段が40度前後ぐらいであることからすると、どれだけ急勾配であるかがよくわかる。丸岡城では、階段の上り下りのためにロープが備え付けられている。実際に上り下りをしてみたが、確かに怖~い(苦笑)。『丸岡城公式サイト』の写真を是非ご覧あれ!

 

3.「旅に出かけるまでの楽しみ」

休日を利用して城巡りへ出かける。レベルとしては既に上級者の域に達するのかもしれないが、限られた時間で幾つの城を攻略できるかは大事なポイントである。一泊二日とした場合、まず飛行機を使うのか、新幹線にするのか、空港や駅から目的地までの交通手段をどうするか。効率性を重視すれば、レンタカーを使う機会がどうしても増えるが、在来線や路線バスを乗り継いでいく行程もなかなか面白い。城に着いた後、どのくらいの見学時間を確保できるか、次の目的地まではどれくらいの時間で移動できるか、お昼はどこで何を食べようか、地元の名物が食べられるかどうか、お宿はどこに決めようか等々。何度も何度もプランを練り直し、やっと出来上がった行程表を満足げに眺める。城巡りに出かける前に、既に半分以上の旅が終わっている感じがする(笑)。

城巡りのプランニングをしている時が、実は一番楽しいひと時かもしれない。「旅に出かけるまでの楽しみがあること」、これも城巡りの魅力の一つである。

城巡りの際に偶然出会った「ドクターイエロー」。こんな出会いがあるから旅はやめられない

 

4.「歴史と触れ合う」

なぜここに城があるのか。すべての城にはその場所に作られた意味がある。立地によって城は山城、平山城、平城と大きく三つに分けられるが、領主はいざという時に籠城することや敵に攻められた場合の防御のこと、政治・経済の中心地とすることなど、城を作る場所に明確な目的意識を持つ。その城で実際にどのような戦いが繰り広げられたのか、徳川の世になってお殿様はどのような人事異動をさせられたのか、明治維新後に城はどのような運命を辿ったのか。城見物へ出かけると、そのような歴史をごく自然に学ぶことができる。

城巡りは、生きた歴史に触れ合うことができる、格好の“社会科見学”である

コロナ騒動が落ち着いたら、おらが街のシンボルを見に出かけるため、綿密な行程表をこしらえて、歴史と触れ合う“城巡り”へ早く出かけることにしよう。

👉 Vol.2 天守はやはり城のシンボル

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