対馬(ツシマ)の話 その3(Vol.31)

わが国の命運を左右する一戦であった「日本海海戦」は、「対馬」東方沖海域で行われました。「国境の島」である「対馬」は、対ロシア(旧ソ連)との関係においても重要な戦略的拠点であったと言えます。

8.「皇国の興廃この一戦にあり」

話は一気に1905(明治38)年へと飛ぶ。日露戦争の最大のクライマックス「日本海海戦」が、「対馬」東方沖海域で5月27日~28日にかけて行われた。相手は、ロジェストヴェンスキー中将率いる「バルチック艦隊」1904(明治37)年10月にリバウ軍港(現:ラトビア西部)を出発し、極東のウラジオストックを目指していた大艦隊(戦艦8隻、海防戦艦3隻、装甲巡洋艦3隻、巡洋艦6隻等)を、東郷平八郎大将率いる連合艦隊(戦艦4隻、装甲巡洋艦8隻、巡洋艦15隻等)が完膚なきまでに叩きのめした戦いである。そのドラマチックな展開は、司馬遼太郎氏の小説『坂の上の雲』の中で詳細に描かれるとともに、そのスケールの大きさから原作のドラマ化が難しいと言われていた中、NHKがスペシャルドラマ『坂の上の雲』を制作し、2009(平成21)年から足かけ3年にわたって放送された。再放送も含めてご覧になった方も多いのではないだろうか。戦艦三笠に掲揚されたZ旗は、「皇国ノ興廃、コノ一戦ニ在リ。各員一層奮励努力セヨ」という号令を意味しているというエピソードは、あまりに有名である。

讀賣新聞オンライン「今につながる日本史」から引用。シリーズ化されているが、編集委員丸山淳一氏のコラムはいつも大変面白い。

海戦自体は日本海軍の圧勝に終わったが、ウラジオストックを目指す「バルチック艦隊」が日本列島を通り抜けるにあたって、どのコースを選択するかについては、最後の最後まで日本海軍が悩んだ問題であった。選択肢は対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡の三つ。もし津軽海峡、宗谷海峡を目指す場合には、「バルチック艦隊」は太平洋側へ大きく迂回することになり、下手をすると海戦自体もできなくなってしまう。当時は、海軍内だけでなく一般民衆の間でも、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論が行われたそうである。

小説やドラマの中では、東郷平八郎の腹は最初から「対馬海峡から来る」ものと決まっていた、という描かれ方がなされている。やや神聖化しすぎではないかという印象も受ける(苦笑)。ドラマの中の渡哲也氏の演技には、大いに惹き込まれるものがあった。

なお、明治維新の時代になり、「金田城」(👉Vol.29)の山頂付近には砲台が築かれるなどの要塞工事がなされ、陸軍砲兵部隊が国境防衛の任に当たることになった。ロシアとの緊張関係が高まる中、国防の最前線としての「対馬」のステータスが、再び上がったというわけである。その「対馬」において、日本の歴史を大きく左右した、世界史上も類のない、戦艦同士による大規模な海戦が行われたのである

 

9.番外編

「対馬」に行ったら外せないグルメと言えば、やはり穴子であろう。筆者は、対馬空港近くの肴や えんという店で穴子重を食した。本土で食べる穴子よりも、身がふっくらとしている感じで、甘ダレにもよく合っていた。ちなみに、穴子の漁獲量都道府県別ランキング(令和元年)によれば、1位は島根県、2位は長崎県、3位は宮城県になるそうである。

お土産品は、やはり都会である「厳原(いずはら)」(👉Vol.30)の地で選びたい。お勧めは、「観光情報館ふれあい処つしま」である。「対馬」のお土産は、ほぼほぼここに揃っているように感じる。珍しいお菓子としては、「対馬名物かすまき」が挙げられる。お殿様が参勤交代から無事に戻られた際のお祝いとして献上されたそうで、今でもおめでたい席には欠かせないお菓子だそうだ。餡が甘すぎず、上品な味である。

番外編のニュースをもう一つ。対馬」観音寺から約13年前に韓国窃盗団によって盗まれた仏像(観世音菩薩坐像)が、2025(令和7)年5月12日、韓国側からようやく返還されるに至った。これまでも日韓関係がぎくしゃくする度に、象徴的な事件として取り上げられてきたものである。元々、14世紀の朝鮮半島の「高麗」で造られた仏像であるということが明らかになっていたという点が、今回の問題をより複雑なものにしたと言えるが、双方の関係改善が図られた一つの事例として、注目したい。

「対馬」の観光スポットについては、まだ紹介しきれていない所が数多く残っている。「対馬」のことをさらに詳しく知りたいのであれば、「対馬博物館」がお勧めである。平常展では古代から近・現代までの「対馬」の歴史が学べるとともに、イベント物も定期的に開催されており、トピックス的な話題としては、日本に戻って来たばかりの観音寺の観世音菩薩坐像が2025(令和7)年6月15日まで特別展示されている。博物館に立ち寄った記念に、お土産として館内チケットのデザインと同じ柄の手ぬぐいを購入した。友人の反応はあまり芳しいものではなかったが、個人的には気に入っている(笑)。

「対馬」に関する話は尽きないが、そろそろ「壱岐(イキ)」に向かうことにしよう。厳原港からフェリーに乗り、「壱岐」郷ノ浦港を目指した。

👉 Vol.32 「壱岐(イキ)」の話

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