地震との戦い その3(Vol.16)

熊本地震によって甚大な被害を受けた熊本城。2021年(令和3年)6月、ついに復元された天守が特別公開された。残念ながらコロナ禍の影響を受け、一旦特別公開は中断されたものの、2021年10月1日から再開、その後も感染状況を上手にキャッチアップしながら特別公開は継続されている。復元された天守を見て、どれだけの人たちが勇気をもらっただろうか。筆者もその一人である。

1.熊本地震

熊本地震は、2016年(平成28年)4月14日21時26分に発生したマグニチュード6.5・最大震度7の前震、4月16日1時25分に発生したマグニチュード7.3・最大震度7の本震が連続したものである(⇒Vol.1)。未明に発生した本震によって、「熊本城」の屋根に残っていた瓦のほとんどが落ちた。石垣が多数崩落していく中、積み重なったままほとんど一本柱の状態で持ち堪え、「奇跡の一本石垣」と呼ばれた飯田丸五階櫓は我々の記憶に新しいところである。「熊本城」は、熊本地震によって重要文化財13棟、復元建造物20棟の一部が倒壊・破損、石垣全体の10.3%が崩落するなどの大きな被害を受けた。

「熊本城」にある石垣は国の特別史跡であるため、文化財として、原則、伝統的な工法で元の状態に戻すことが求められる。文化財という枠組みを堅持しながら、地震に強くなるための「熊本城」を復元・復旧していくための長い戦いが始まった。

 

2.復元された天守

震災からの早期復旧に向け、まず2016年(平成28年)6月、飯田丸五階櫓の倒壊を防止するための緊急対策工事が始まり、2017年(平成29年)4月からは大天守の復旧、耐震補強工事、その後に小天守の復旧工事が進められていく。特に「熊本城」の天守は、1960年(昭和35年)に鉄骨鉄筋コンクリート造で再建された建造物であり、重要文化財というしがらみがなかったため、熊本地震の復興のシンボルとして最優先で工事が進められていった。

復元された天守が特別公開されるまでには、まさにホップ⇒ステップ⇒ジャンプの三段跳びであったと言える。「特別公開第1弾」(ホップ)は、2019年(令和元年)10月15日からスタート。二の丸広場から西大手門を通って天守閣前広場まで、工事用のスロープを利用した約450 mの見学ルートを通って、一般の方々が復旧工事が進む大天守の近くまで見学をすることができるようになった。震災から約3年半の歳月を経てのことである。

「特別公開第2弾」(ステップ)は、2020年(令和2年)6月1日からスタート。全長350m、高さ5~7mの地点に新たに“特別見学通路”が設置された。「南口券売所」から入って歩き出すとすぐ左手に「数寄屋丸二階御広間」がある。地震によって一部の石垣が崩落した被害状況、その復旧状況を間近に見学することができる。圧巻なのは二つの時代の石垣が並んだ「二様(によう)の石垣」だ。高さ5mの目線で石垣の積み方、傾斜角の違いなどを見比べることができ、「二様の石垣」と天守を一緒に写真に納めることができる。今だからこそ味わうことができる、「熊本城」の魅力と言えるかもしれない。

そして「特別公開第3弾」(ジャンプ)でいよいよ天守内部が公開される。当初は2021年(令和3年)4月26日から一般公開の予定であったが、コロナ感染拡大防止のために延期、同年6月28日からの開始となった。地階の“穴倉”→1階の“加藤時代”→2階の“細川時代”→3階の“近代”→4階の“現代”と、館内の展示は一新された。最上階の6階からは熊本市内を一望することができる。残念ながらコロナ感染拡大防止のため同年8月2日に一旦特別公開が中断されたが、10月1日から再開、その後も感染状況を的確にキャッチアップしながら、一般公開は継続されている。

筆者が「熊本城」を訪れたのは、2021年(令和3年)12月1日のこと。“特別見学通路”を歩いて「数寄屋丸二階御広間」「二様の石垣」を見学しながら復元された大天守と小天守の前にたどり着く。震災からわずか5年でここまでたどり着くことができたのか。「熊本城」の復興・復旧にかける多くの人たちの情熱・エネルギーを直に感じ、大いに勇気をもらった。

「数寄屋丸二階御広間」(2021.12.1)

 

「二様の石垣と天守」(2021.12.1)

復元された大天守・小天守(2021.12.1)

 

3.「復興天守」

「熊本城」の復旧は、2018年(平成30年)3月に策定された「熊本城基本整備計画」に基づき進められている。復旧基本計画の期間は20年と設定され、2022年度(令和4年度)までの5年間を短期計画期間の終期(2037年度)までの20年を中期、100年先の将来の復元整備完了までを長期として位置づけている。 息の長い取組みになるが、街のシンボルとしての“城”をなんとしても復元・復旧させたいという熊本市の熱量、ひた向きさが感じられる計画だと思う。

「熊本城」の復元・復旧のために何か役に立てることがないか、そう考える人も多いと思う。復興城主という寄付制度があるのをご存知だろうか。「ふるさと納税」に関する各種サイトから簡単に手続きをすることができ、城主の証である“城主証”が記念にもらえるなどといった特典もある。2022年(令和4年)7月現在で、寄付件数は12万件を超え、寄付金総額は約28億円。息の長い取組みに対しエールを送る人たちは多い。

少し残念なニュースになるが、「熊本城」の復旧が予定よりも遅れることになった。2022年(令和4年)11月22日の記者会見で熊本市の大西市長は、大規模な石垣の復旧は国内に前例がなく、当初の想定より工法の検討に時間がかかっていることや、完全復旧には、おととし(2020年)に設置された仮設の特別見学通路を撤去する必要もあることなどから、完全復旧は、当初の計画よりも15年遅れ、2052年度となる見直しであることを明らかにした。あと30年。できることであれば、何とかこの目で完全復活した「熊本城」の雄姿を確認できればと思う。

2022年(令和4年)10月からは「宇土櫓」の解体作業が始まっている。重要文化財の解体・保存作業には、石垣と同様、一定の時間をかけて行わなければいけないものであろう。新「宇土櫓」がお目見えするのは2026年1月の予定。こちらの雄姿は今のところ無事に見届けられそうだ(笑)。息の長い取組み、これからも応援を続けていきたい。

「宇土櫓」(2021.12.1)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です