一国一城の主(Vol.8)

“一国一城の主”になってみたい。城好きの方であれば恐らく誰もが憧れることではないかと思います。「日本100名城」の「大洲城」、「平戸城」では、“城泊(キャッスルステイ)”ができるようになりました。その日、あなたは城主になる。非日常的な体験ができる、城好きにとって最高の贅沢です。

1. “キャッスルステイ”

もし自分が城主になったら一体どんな気持ちになるであろうか。そんな非日常的なことが最近では経験できるようになった。“城泊(キャッスルステイ)”がそれである。ヨーロッパでは各地に古城を改築したホテルが見られるが*1、城郭を文化財として保護することに重きを置く日本の場合、一昔前ではとても考えられなかった企画である。以下のとおり、愛媛県の「大洲城」、そして長崎県の「平戸城」でそれぞれ宿泊ができるプランが用意されている。どちらもVol.4の「日本100名城」である。

*1  フランス、ドイツ、イギリス、オーストリア、イギリス等々。ヨーロッパ>古城>ホテルで検索をしてみると、次から次へと古城ホテルが出てくる。例えば、ドイツの「ブルクホテル アウフ シェーンブルク(Burghotel Auf Schoenburg)は、1000年以上の歴史を誇るドイツの古城ホテルとして有名である。

 

2.「大洲城」とは

「大洲城」の築城は14世紀と言われている。天正13年(1585年)、豊臣秀吉が四国平定を果たした後、①小早川隆景⇒②戸田勝隆⇒③藤堂高虎⇒④脇坂安治と目まぐるしく城主が変わり、元和3年(1617年)、加藤貞泰が米子から入城、以後、加藤氏の治世が明治維新まで続く。

「大洲城」の主要な建造物は、天守と四棟の櫓である。天守は四層四階の層塔型であったが、残念ながら明治21年(1888年)に取り壊されてしまう。特筆すべきことは、江戸時代の古地図をはじめ、江戸時代に造られたと思われる天守ひな形、明治時代に撮られた写真など、往時の姿を正確に復元できる資料が数多く残されていたことである。「大洲城」を愛する地元住民の城郭への保護活動と市民による寄付等によって、平成16年(2004年)、Vol.2のとおり木造天守として再建された。戦後復元された木造天守としての四層四階は日本初のもの、その高さは実に19.15mに達する。

四棟の櫓は、「台所櫓」、「高欄(こうらん)櫓」、「苧綿(おわた)櫓」、「三の丸南隅櫓」である。いずれも国の重要文化財に指定されており、「台所櫓」と「高欄櫓」は天守の両側に連結する形になっている。

清流・肱川(ひじかわ)が流れる大洲の城下町は、「伊予の小京都」と呼ばれ、非常に風情がある。市街地にある「おはなはん通り」*2では、江戸時代から明治時代にかけての家並み、町並みが当時のまま残されている。肱川流域の景勝地“臥竜淵”に佇む数寄屋造りの「臥竜山荘」は見どころの一つである。

*2  昭和41年のNHK朝の連続テレビ小説の「おはなはん」のロケ地となったことに由来して、「おはなはん通り」と呼ばれている。

 大洲城の木造再建天守と台所櫓は連結されている。

 

3.「大洲城」に泊まる

それでは「大洲城」に宿泊できるプランを見てみよう。「その日、わたしは城主になる」という専用サイトが既に立ち上がっている。

〇 定員:2名~6名 *予約は大人2名から受付

〇 宿泊可能日(2021年): 2021年3月15日(月)~11月30日(火) *8月を除く

〇 1日1組限定、年間30組限定

〇 チェックイン:15時/チェックアウト:12時

〇 宿泊料金: 550,000円(税込)

〇 追加料金:大人(中学生以上):110,000円(税込)小学生: 55,000円(税込)未就学児:33,000円(税込)

宿泊者に用意された滞在プログラムは、まさに城主気分を満喫できる内容になっている。一泊二日のタイムスケジュールに従って、その内容を覗いてみよう。

・15:30到着、(お好みで)甲冑への着替え⇒・17:00初代藩主加藤貞泰入城シーン再現(宿泊者も参加可能)⇒・18:00夕食前の饗応として伝統芸能“雅楽”の鑑賞⇒・18:30城内で夕食(藩主が食したであろう献立を現代風にアレンジした料理を食す)⇒・20:30大洲城が最も美しく見えるポイントに建てられた宿泊者専用ラウンジでくつろぐ⇒・22:30天守で就寝(樹齢300年以上の木材を使用した天守を独り占め)⇒・7:30大洲の景勝地「臥竜山荘」を貸し切り、朝食⇒・9:30大洲城下町を散策⇒・12:00チェックアウト

松山空港もしくは松山駅からの送迎も用意されている、まさに贅の限りを尽くしたプランである。

“城泊”のほか、大洲町では、豪商の母屋や蔵、創業から400年続いた元料亭など、城下町に残された由緒ある邸宅をリノベーションしたホテルに分散して宿泊ができる、「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」という宿泊プランがある。

 

4.“平戸城”とは

日本で一番島の数が多い都道府県は、長崎県である。壱岐(いき)、対馬(つしま)、五島列島、平戸島など、大小様々な島が971島ある。「平戸城」は平戸島にあり、九州本土と平戸島は平戸大橋によってつながっている。鋼鉄製の赤い吊り橋(全長665m)である平戸大橋は、絶好の写真撮影スポットである。

平戸島は、古くから海外交易の拠点として栄えた。地政学的に見れば至極当然のことであろう。16世紀には平戸港にポルトガルの貿易船が初めて入港、南蛮貿易が始まった。同じ頃にフランシスコ・ザビエルが来航し、キリスト教(カトリック)の布教が始まっている。江戸時代になると、オランダ商館(1609年)そしてイギリス商館(1613年)が相次いで設置された。平戸の街を訪れると、オランダ商館跡、平戸オランダ商館1639年築造倉庫(復元)、平戸ザビエル記念教会、カトリック田平天主堂など、往時を偲ばせる遺産が数多く残されている。2018年(平成30年)、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産*3が世界文化遺産に登録されているが、中江ノ島、春日集落と安満岳は、「平戸の聖地と集落」としてその構成遺産になっている。

「平戸城」は、平戸島の北部に位置し、対岸に九州本土を望む平戸瀬戸に突き出た丘陵の上にある。平戸港側から(模擬)天守を仰ぎ見てみると、その立地が良く理解できる。1613年(慶長18年)、城は一旦焼失したが、東シナ海警備の必要性もあって平戸藩による再建の願い出を幕府が聞き入れ、1704年(元禄17年)、5代藩主松浦棟が城の再建を開始した。再建にあたっては、山鹿流軍学によって縄張りがなされている。天守は上げられず、二の丸に建てられた三重三階の乾櫓をその代用としていたと言われている。

明治維新の廃城令によって「平戸城」は廃城となり、現存する狸櫓と北虎口門(搦手門)を残し、城の建物は解体された。1962年(昭和37年)、鉄筋コンクリート造の模擬天守および復興の見奏櫓、乾櫓、地蔵坂櫓、懐柔櫓が再建されている。

令和の時代に入り、「平戸城」は大規模改修工事を行い、2021年(令和3年)4月1日にリニューアルオープンをした。模擬天守内は展示が一新され、平戸の歴史をデジタルアートで体験できるアミューズメントが新たに設けられている。

*3  鎖国政策が取られた江戸時代の日本ではキリスト教が禁止され、特に1612年の「慶長の禁教令」以降、キリスト教徒に対して激しい弾圧が加えられた。約250年の禁教期間にキリスト教の信仰を捨てずに密かに潜伏を続けていた人々のことを「隠れキリシタン」または「潜伏キリシタン」と言う。1873年(明治6年)禁教令が解かれ、潜伏を続ける必要がなくなったにもかかわらず、カトリック教会に戻らずに独自の信仰を続けた人々のことを「隠れキリシタン」、カトリックに復帰した信者のことを「潜伏キリシタン」と呼び、今日では両者を区別している。

平戸城模擬天守

改修前の平戸城懐柔櫓

平戸漁港から見た平戸城天守

 

5.“平戸城”に泊まる

令和の大改修によって、懐柔櫓は「日本100名城」で初めての常設の城伯施設になり、「平戸城CASTLE STAY懐柔櫓」として2021年4月1日にオープンした。「その日、あなたが特別城主になる」という専用サイトが立ち上がっている。宿泊プランを見てみよう。

〇 客室1室/収容可能人数:1組5名

〇 広さ119.76平方メートル/2階建て ベッドルーム/リビングダイニングルーム/和室コーナー/ウッドデッキ/平戸大橋・海を眺める浴室

〇 チェックイン:15時/チェックアウト:10時

〇 宿泊料金: 1泊600,000円  *消費税、サービス料、食事料金、オプション(体験メニュー別) 【期間限定】1泊2食付ペア限定特別セットプラン 450,000円(食事代別)

食事料金は別(夕食:40,000円、朝食:5,000円)になるが、ゆったりとしたリビングダイニングルームを利用して、夕食には平戸島の海の幸、山の幸を中心とした新鮮な旬素材をふんだんに使った創作料理のフルコースが提供される。同じく別料金にはなるが、平戸の歴史を十分に体感できる「体験メニュー」も充実している。亀岡神社拝殿での「平戸神楽&ご祈祷体験プログラム」、閑雲亭(草庵茶室)での「鎮信流茶道体験・茶道セット付プログラム」、天桂寺を舞台にした「座禅・お茶体験プログラム」など、非日常的な経験が目白押しである。

 

6.一生に一度の贅沢(ぜいたく)!?

城好きにとって、城主気分を体験できることはこの上ない贅沢であると言える。「大洲城」そして「平戸城」に宿泊できるプランは、どちらも非常に魅力に富んだものである。よし、ここはひとつ一生に一度の贅沢をしてみるか!!そう覚悟さえ決めてしまえば、決して手が届かない料金設定ではないようにも思う。まさに絶妙なプライスと言うべきであろうか。最大の課題(越えなければいけない壁)は…、懐をしっかりと握る“大蔵大臣”にどうやって「うん」と言ってもらうかであろう(苦笑)。

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