火災との戦い その3(Vol.37)

2019(令和元)年10月31日未明に発生した火災によって焼失した「首里城」の復興整備が進み、2026(令和8)年秋にはいよいよ正殿が完成する予定です。昨年11月、久しぶりに「首里城」を訪れ、その復興状況をこの目で確かめてきました。

1.「見せる復興」

2019(令和元)年10月31日未明に発生した火災によって、沖縄のアイデンティティとも言うべき「首里城」が焼失した。多方面の視点から火災の原因調査が行われたこと、様々な再発防止策を織り込みながら、2022(令和4)年度より本格的な復元整備が進められてきたことは、既に触れたとおりである(👉Vol.17)。「首里城」復元を進めるにあたっての最大の特徴は、「見せる復興」をテーマに掲げていることであろう。復元工事の仮定が段階的に公開されていくことによって、訪れた人たちはその都度、「首里城」の“今”というものを肌で直接感じ取ることができる。復元・復興工事のあり方としては、非常に洗練されていると思う。

昨年11月、筆者は約2年ぶりに「首里城」を訪れた。正殿の復元工事は、これまでずっと「素屋根(すやね)」という大きな仮設の建物の中で行われたきたが、筆者が訪れる直前の2025(令和7)年10月にその「素屋根」が撤去された。なんという幸運であろうか。金網フェンス越しではあったものの、正殿の姿をはっきりと捉えることがことができた。もっとも、同年6月ぐらいまでは、「素屋根」の中に入って、正殿の1階から3階までの各フロアの復元工事の状況を間近に見学することができたそうだ。「見せる復興」という点では、その方が非日常的であって、確かに特別感がある。うーん、そいつは残念と思いながらも、正殿の雄姿をしっかりこの目に焼き付けることにした。

奉神門から正殿のある有料エリアに入る

金網フェンス越しに、その姿を現した正殿

上棟に屋根が吹き付けられていく過程(パネル写真)

 

2.2019年は特別な年

文化財の焼失という点において、2019年はまさに特別な年であった。首里城焼失に遡ること半年前、2019(平成31)年4月15日から16日にかけて、フランスのパリにあるノートルダム大聖堂が火災で焼失し、シンボルとも言うべき尖塔部分が崩壊した。電気系統の故障、あるいはたばこの不始末ではないかと憶測されていたが、結局、「詳しい出火原因は不明」ということになった。

これに慌てたのは、日本の文化庁である。国宝・重要文化財の建造物約4,600棟の防火設備等に関する緊急調査を実施し、同年8月8日にその結果を公表した。これによると、①国宝・重要文化財の9割以上が全部または一部を木造で建てられていること②世界遺産・国宝のうち約2割で消火設備の整備・改修後30年以上が経過し、老朽化による機能低下のおそれがあること③火災等の緊急時に対応ができる人数体制については、特に夜間など、時間帯によって管理体制に脆弱性が見られることなどが明らかとなった。同年9月には、その調査結果を踏まえ、「国宝・重要文化財(建造物)の防火対策ガイドライン」が公表された。

まさにその直後である同年10月に、首里城火災が発生したわけである。ノートルダム大聖堂の火災を契機として、わが国の文化財における防火対策が大きく動き始めた矢先に起きた大惨事。運命の皮肉のようなものを感じざるを得ない。ちなみに、前記ガイドラインに照らし合わせて検証してみると、今回の首里城火災では、火災報知探知機が旧式のもの(検知に時間がかかる空気官式熱探知機)であったこと、スプリンクラーが設置されていなかったこと、警備員らの役割分担関係が不明確であったこと、放水銃の水が10分程度で足りなくなったこと、といった数々の問題点が明らかになった。失ってみて初めて気づくことになった、貴重な教訓であると言わざるを得ない。

 

3.文化庁による5か年計画

これを受けて文化庁は、2019(令和元)年12月、「世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画」を策定し、公表した。その中では、次のような基本的な考え方が示されている。「国宝・重要文化財(建造物)を火災から守るためには、個々の文化財の整備が、所有者等の管理責任を前提としつつも、貴重な国民的財産である文化財が火災リスクに対して万全の防火体制が確保されるかという観点から進められることが重要である。また、文化財がそれぞれ異なる特性を持つ建造物であることを踏まえた上で、消防法令に基づく対応に加え、個別に総合的な防火対策を講じる必要がある」。この「5か年計画」に基づき、国宝・重要文化財(建造物)の所有者等やこれを保管する博物館の設置者等は、関係する行政機関と連携を図りながら、ハード面、ソフト面で様々な取組みを進めていくことになった。

前記「5か年計画」を踏まえ、いち早く対策に乗り出したのが国宝「松江城」である松江市は、2020(令和2)年に有識者からなる検討委員会を立ち上げ、火災の早期探知と初期消火を目指す工事を2024(令和6)年までに完了させている。具体的には、より検知の高い煙感知器を増設するとともに、炎感知器も50カ所に新設、スプリンクラーも全階に設置した。天守のある本丸には消防車が近づけない構造になっていることを踏まえ、城郭内には新たな貯水槽を設け、消火栓や放水銃に短時間で水を送れるようにした。費用負担の点も含め、「国宝を守り抜く」という松江市側の矜持を感じる。

防火対策工事を終えた松江城の雄姿

 

その一方で、残念ながら「5か年計画」の対象となる世界遺産・国宝のうち、約3割は未着手のままであると言われている。最大のネックは、防火対策に要する諸費用をどのように調達するかということであろう。一定水準の消火設備の整備などに対しては、国が補助を行うという方針も打ち出されているが、管理責任の主体となる所有者等の側にとっては、持続可能な財源確保、スポンサー探しはもちろんのこと、メリハリを利かせ優先順位をつけながら整備計画の策定・実施を計画的に進めていくことが求められる。決して簡単な事業ではない。

所有者等からの然るべき説明があることを前提にして、世界遺産・国宝を見る側としては、防火対策はコストがかかる事業であるということをよく理解し、拝観料・入場料等の引上げを粛々と受け入れていく。今、まさにそういうタイミングを迎えているように感じる。

👉Vol.38 「中道往還(なかみちおうかん)の話」

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